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遺言書作成の必要性
遺言書を作成していない人に相続が発生した場合は、相続人全員で遺産分割協議をすることが基本になります。つまり、遺産分割協議がまとまらないと、相続手続きを進めることができません。
一方で、被相続人が遺言書を作成していた場合は、相続人全員の関与は必要とせず、遺言書を使って相続手続きが可能となります。
したがって、遺産分割協議がまとまらないことが想定されるケースや、遺産分割協議自体ができないことが想定される場合は、遺言書を作成することを検討された方がよいでしょう。
このページでは、具体的にどのような方が遺言書を作成すべきなのか、また遺言書の種類についても説明していきます。
遺言書に対する誤解
遺言書の作成を躊躇う理由として、遺言書に対する誤解があるのではないかと思います。
① 遺言書は死期が迫ってから作るもの
遺言書はいつでも作成することができます。しかし、認知症等で判断能力が低下する前に作成しておくべきです。
認知症等で判断能力が低下した後に作成した遺言書は、有効性が争われる可能性があります。
② 遺言書の内容に拘束される
一度、遺言書を作成したら、その遺言の内容に拘束されると思われるかもしれません。しかし、いつでも遺言の方式に従って、遺言の一部または全部を撤回することができます。
また、遺言に記載した財産を生前に処分することも可能です。その場合は、生前処分と抵触する遺言部分は撤回したものとみなされます。
③ 遺言を書くほど財産は多くない
最高裁判所の資料によると、遺産分割事件の件数は約13,000件(2022年)でした。
遺産の価格別に見ると、最も多いのは遺産が1,000万超~5,000万以下で全体の約43%、次いで1,000万以下で全体の約33%でした。
決して莫大な遺産があるから相続人間で揉めているわけではないことが分かります。
遺言書作成を検討した方がいいケース
子どものいないご夫婦
被相続人に子どもがいない場合、被相続人の親や兄弟姉妹も相続人となります。したがって、被相続人の配偶者が相続財産をすべて相続するには、被相続人の親や兄弟姉妹と遺産分割協議をし、合意を得る必要があります。
このようなケースでも、遺言書で「妻(又は夫)に全財産を相続させる」旨の遺言書を作成しておくと、被相続人の親や兄弟姉妹が関与することなく相続手続きを進められます。
尚、兄弟姉妹には遺留分がないので、配偶者は遺留分侵害請求を受ける心配もありません。
前婚との間に子どもがいる
被相続人が過去に離婚していて、前の配偶者との間に子どもがいる場合は、その子どもも相続人となります(なお、前婚の配偶者は相続人にはあたりません)。つまり、相続の手続きは、前婚の子どもの協力が必要となります。前婚の子どもと全く面識がない場合には、連絡を取ることに負担があるかもしれません。
このようなケースでも、遺言書を作成しておくことで、相続手続きの停滞を回避することができます。
音信不通の相続人がいる
相続人の中に音信不通の人がいる場合は、不在者財産管理人の申立てを行い、不在者財産管理人を交えて遺産分割協議を行うことになります。つまり、遺産分割協議を行うまでの過程が困難で、思うように相続手続きが進められません。
そのような場合でも、遺言書を作成しておくことで、遺言書を使って相続手続きを進めることが可能となります。
認知症、未成年の相続人がいる
音信不通の相続人がいるケースと同様に、認知症の相続人がいる場合、未成年の相続人がいる場合は、いずれの場合もその相続人は遺産分割協議に参加することはできず、法定代理人や特別代理人が代理して遺産分割協議を行います。
相続人が多数
兄弟姉妹や甥姪が相続人となるケースは一般的に相続人が多くなります。相続人が多いほど、遺産分割協議で相続人全員の意見をまとめるのは難しくなることが想像できます。
相続人でない人に財産を遺したい
法律上、婚姻関係にない内縁関係の場合、内縁関係の一方が亡くなっても、他方の内縁の配偶者は相続人ではありません。内縁関係の配偶者に遺産を遺したい場合は、遺言書が必要となります。
尚、内縁の配偶者のような相続人でない人に不動産を遺贈する場合、遺贈の登記(受遺者名義の登記)の際には、原則として相続人全員の協力が必要となります。しかし、遺言で遺言執行者を指定しておくことで、受遺者と遺言執行者で(=相続人全員の協力を得ないで)遺贈の登記が可能となります。
遺言書で遺言執行者を指定しておくこともあわせて検討した方が良いでしょう。
相続人がいない
相続人がいない場合、相続財産は最終的に国庫に帰属します。お世話になった方に遺産を遺したい場合は、遺言書を作成する必要があります。
会社を経営している
会社を経営されている方で後継者が決まっている場合は、後継者へ株を相続(又は遺贈)する旨の遺言書を作成した方がよいでしょう。
遺言書がない場合、誰が株を相続するかは遺産分割協議の内容次第となり、会社の経営に影響が出る可能性もあります。
主な遺言書の種類とメリット・デメリット
遺言書にはいくつかの種類がありますが、一般的なものは下記の2種類になります。
- 遺言者が自分で書く「自筆証書遺言」
- 公証役場で作成する「公正証書遺言」
自筆証書遺言について
自筆証書遺言を作成するには、形式面で下記の要件があります。
- 全文自書する
- 作成日付を書く
- 署名をする
- 押印する
メリット
- 費用がかからない
- 誰にも知られずに作成できる
デメリット
- 形式面の要件を満たさず、無効となる場合がある
- 遺言書を見つけてもらえない可能性がある
- 紛失、改ざんのリスクがある
- 相続開始後に検認手続きをする必要がある(法務局に預けた遺言書は除く)
公正証書遺言について
メリット
- 無効になる可能性が極めて低い
- 遺言書が公証役場に保存されるため、紛失、改ざんのリスクが少ない
- 手書きしなくてよい(署名のみ)
デメリット
- 公証人への手数料がかかる
- 証人が2人必要
公正証書遺言の証人になれない人
- 未成年者
- 推定相続人、受遺者、これらの人の配偶者と直系血族
- 公証人の配偶者、4親等内の親族、書記および使用人
当事務所の遺言書作成サポート業務
- 戸籍収集
- 遺言書の文案作成
- 証人としての立会い(公正証書遺言の場合)
- 公証役場とのやり取りを一任できる(公正証書遺言の場合)
- 自筆証書遺言を法務局で保管する際のサポート
- 相続税の申告が見込まれる方には、税理士を交えての作成支援
親御さんに遺言を書いてもらいたいという声も聞きます。ご家族から親御さんに遺言書の必要性をお話しするのはなかなか切り出しにくいこともあるかと思います。
ご要望をいただきましたら、ご家族とご一緒に遺言書の必要性やどの遺言書を作成すべきかといったご案内をさせていただきます。